パブリック債券

2023年7月のグローバル債券市場を展望する

2023年7月 – 2 分 レポートを読む

「新興国と経済環境が類似する先進国の債券投資が有望」と考える2023年7月時点のグローバル債券市場の見通しについて、先進国ソブリン債券チームの溜 学(たまる まなぶ)が解説します。

 

「データ次第では利上げもあり得る。」米欧の中銀首脳が口を揃えて市場にメッセージを発している。7月も、時々刻々と公表される経済指標に市場が上下動する展開は続きそうだ。引き締め政策の転換点を先読みしがちな市場に警告を発し続ける中央銀行だが、大幅な利上げで強力にインフレを抑え込むという昨年後半に見られた米欧中銀の姿勢には変化が感じ取れる。

米国を例にとれば、0.75%の連続利上げが0.50%、0.25%と利上げ幅が減少し、ついに6月には利上げを一旦停止した。7月に0.25%の利上げを再開したとしても2回に1回のペースで0.25%の利上げならば1回あたり0.125%への利上げ幅の減少だ。一方、物価上昇率は鈍化してきており、政策金利はインフレ率を上回る状況に至っている。利上げスピードを緩め、これまでの引き締め策の効果を見極め、根強く残るインフレの最終処理の段階に移っていくのは妥当だろう。

新興国に目を向けると興味深い事実が浮かび上がる。2021年8月から利上げに着手したウルグアイは、2023年4月に利下げに転じている。チェコやポーランドでは利上げ停止の状況が続いている。そして、ゼロコロナ政策を撤廃した中国では景気回復の足取りは重く、ローン金利が引き下げられている。中国については国内の不動産バブルの崩壊といった特殊要因があるにせよ、そのほかの新興国で引き締め局面を抜け出せた背景としては、①利上げの開始時期が早い、②借り入れ依存が強く、経済が金利上昇に脆弱、③経済活動に占める消費サービスの割合が少なく、先進国を悩ませるサービス物価の高止まりへの悩みが少ない、などがあげられる。

これらの利上げ停止に至った新興国と経済環境が類似する先進国の債券は有望だ。具体的には利上げ開始の早かったニュージーランド経済が金利上昇に脆弱なカナダ、豪州、などが挙げられる。一方、サービス物価の高止まりが先進国の中央銀行に共通する悩みだ。この解消には賃金上昇圧力の低下が特効薬だ。企業と労働者の力関係がコロナ禍を経て大きく変わり、構造的に賃金が高止まり続けるリスクには留意が必要だが、雇用の鈍化が確認できれば債券投資の青信号が灯ることになる。債券投資家としては各国のインフレ退治のゴールまでの距離を推測し、債券投資のリスクテイクを行いたい。

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溜 学(たまる まなぶ)、CFA

先進国ソブリン債券チーム、リード・ポートフォリオ・マネジャー

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