ハイイールド:不安定な市場環境にかかわらず、引き続き堅調に推移

2021年10月 – 4 分 レポートを読む
今後も短期的なボラティリティ上昇は避け難いものの、足元の市場の懸念は、ハイイールド企業が概して堅調であることを市場は見落としていると思料されます。

2021年を通して経済は堅調に回復している一方、新型コロナウイルスのデルタ株の拡大や米連邦準備制度理事会(FRB)によるテーパリング(量的緩和の縮小)見通し、中国情勢などの不確実性から、センチメントはやや悪化しています。しかしながら、2021年第3四半期において、ハイイールド社債およびバンクローンはともに小幅なプラスリターンとなりました。同四半期、欧州バンクローンは1.14%のリターンとなり、1.13%のリターンとなった米国バンクローンをわずかに上回りました。米国および欧州のハイイールド社債は、それぞれ0.93%と0.83%のリターンとなりました1

明るい見通し 

ハイイールド債券市場は、引き続き堅調なファンダメンタルおよびテクニカル面の恩恵を受けています。企業収益は堅調でデフォルト率は低位であり、多くの企業はこれまでのところインフレ圧力を販売価格へ転嫁するだけの価格決定力を有しています。テクニカル面では、多くの企業が昨年発行した債券よりも魅力的な水準で発行しようとする中、米国と欧州において新規発行が記録的なペースで続いています。全体的に見て、市場は固定および変動金利の債券を十分に消化してきました。これは、市場が、今のところインフレは一過性のものに過ぎないという中央銀行のメッセージに理解を示しているためです。FRBは年内の利上げを示唆していませんが、資産買い入れプログラムの縮小を開始することで金融引締めを開始する可能性があります。しかし、テーパリングが開始したとしても、資産買い入れプログラムによる買い入れ額は、引き続き金融システムに大きな流動性をもたらすに十分であると思料されます。

第2四半期に入ってから、合併・買収(M&A)活動、特にレバレッジド・バイアウトが顕著に増加しています。これは、プライベート・エクイティのスポンサーが、投資先企業の同ウイルス感染拡大対策のために多額のドライパウダーを費やした昨年とは異なる動向です。回復基調にある中で、M&A への注目度は今年末まで続くと予想され、ハイイールド債券市場の新規発行ペースは堅調に推移するものと思料されます。

しかし、このポジティブな見通しの端緒には亀裂が生じています。世界的に見ても、中国の散発的なロックダウンや燃料価格の高騰などにより、企業のサプライチェーンの正常な機能が阻害され、食料品からマイクロチップにわたる様々な商品不足が生じています。さらに、デルタ型の感染が拡大していることから、同ウイルスの影響を最も受けている旅行およびエンターテインメント関連企業は、2022年にかけてある程度の混乱が生じる可能性があると思われます。しかし、ほとんどの企業は、同ウイルス発生以前の50%から60%の規模ではあるものの、営業を再開・継続しています。
 

市場の混乱 

中国の不動産大手である中国恒大集団(エバーグランデ)の債務不履行懸念により市場が混乱に陥ったことにより、投資家が神経質になっていることが示されました。エバーグランデの影響は極めて中国国内市場に限定的であるため、米国および欧州の市場に大きな影響を与える可能性は低いと考えています。これは、株式市場が過去最高値を更新する反応を示していることからも明白であり、このような状況下ではよくあることですが、投資家は調整局面を模索しているように思われます。しかし、株式市場の調整とそれに対する投資家の思惑は、結果的にハイイールド社債市場のサポート要因になると思われます。投資家が株式へのアロケーションを縮小し、ハイイールド社債およびバンクローンにその大部分を配分する可能性を有するためです。ハイイールド社債のスプレッドがタイトな水準ですが、特に歴史的に見て市場平均の格付けが高いことを考慮すると、ハイイールド社債にはまだ魅力があると考えています。例えば、グローバル・ハイイールド社債市場に占めるBB格の割合は、10 年前の35%から足元60%近辺にまで増加しています(図1)。
 

図1:過去対比、足元のハイイールド社債市場は高い格付け水準 

出所: ICE Bank of America 2021年9月末現在
 

投資機会のある分野 

不確実性が高まり、今後も不安定な状況が継続すると予想される中、継続する混乱に対応可能な流動性およびバランスシートの柔軟性を兼ね備えている企業を選別するために、個別に分析することが重要です。しかし、現在のハイイールド社債市場を俯瞰すると、3つの主要分野において投資機会を見出しています。
 

ライジングスター

2020年には、フォードやオクシデンタル・ペトロリアムなど大型の投資適格級企業を含む約2,380億米ドル相当の投資適格社債がハイイールドに格下げされました。景気が回復基調にある中、逆の事象が生じています。すでに投資適格級に格上げされた企業もありますが、今後6ヶ月から12ヶ月の間に格上げされると思われる企業も多数あります。注目すべき点は、格下げから格上げへの転換は、投資適格とハイイールドの間だけでなく、CCC格とB格の間でも生じています。CCC格社債の保有が可能な投資家が限定されていることを考慮すると、発行体にとって格上げは大きな恩恵であると思料されます。
 

図2:フォーリン・エンジェルおよびライジングスター銘柄の発行額動向 

出所: J.P. Morgan 2021年9月末現在
 

優先担保付債券 

バンクローンや無担保債券などの資金調達手段が限定的となる中、企業の有力な資金調達手段として優先担保付債券が登場し、同ウイルスによるビジネスの混乱期においても、優先担保付債券市場は昨年大きく成長を遂げました。特に、債券の資本構造上における優先順位と安全性という観点において、同市場の成長が投資家に魅力的かつ多様な投資機会をもたらしました。優先担保付債券は他の債券資産に比べ、デュレーションが短期となる傾向があるため、金利上昇の際にはある程度のプロテクションの提供が可能となります。
 

ローン担保証券(CLO)、エマージング社債 

今後、テーパリングや短期的なボラティリティ上昇の可能性を考慮し、CLOやエマージング社債などの非伝統的債券市場にも投資機会を見出しています。例えば、CLO市場では、四半期ごとの支払日に大量の供給があることから一定期間におけるスプレッド拡大が予想可能となるため、魅力的な相対価値上の投資機会が生じています。また、CLOのクーポンは変動金利であることから、金利リスクを抑制することが可能です。また、最近では、エマージング社債も検討に値する資産クラスとなっています。中国やトルコなどにおいてボラティリティが上昇していることから、企業のスプレッドがファンダメンタルズ以上に拡大しており、魅力的な価格で優良な発行体を見極める機会が創出されています。
 

結論

今後数ヶ月間に亘り、多くの投資家が引き続き利回り目標の達成に向けて課題を抱える中、戦略的にハイイールド社債およびバンクローンに対する需要は継続すると見ています。デルタ株の感染拡大などが経済成長の足かせとなる懸念があるものの、ハイイールド社債は株式とは異なり、必ずしも堅調な経済成長を必要としないことも注目すべき点です。むしろ、ハイイールド社債の発行体が、継続的な債務の利払いが可能かどうかが最も重要です。足元の市場において、多くのハイイールド企業は健全なバランスシートと十分な流動性を有しているという事実が見落とされていると思料されます。
 

1. 出所: ICE Bank of America、Credit Suisse 2021年9月末現在

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