パブリック債券

エマージング債券:ファンダメンタルズに回帰

2021年7月 – 4 分 レポートを読む
新興国の経済成長は引き続き堅調に推移しているものの、米連邦準備制度理事会(FRB)が第2四半期末にかけて金融政策の引き締めを早める方向に舵を切ったことから、ハードカレンシー建てソブリン債券および社債は現地通貨建て債券に比べ有利な状況にあると思われます。

エマージング市場は、経済のプラス成長やワクチン接種の進展、米国債利回りの安定推移など、依然として多くの追い風を受けています。その結果、ハードカレンシー建てソブリン債券、社債、現地通貨建て債券の4-6月期のリターンは、それぞれ4.06%、2.10%、3.54%と堅調に推移し1、スプレッドも全体的に縮小しました。しかし、FRBが第2四半期末にタカ派に転じたことで、マーケットのボラティリティが拡大し、新興国の経済成長に対する疑念が生じました。さらに、米中および米ロ間の緊張関係の継続、中南米における社会問題解消を求めるデモ、チリで予定されている大統領選挙など、マクロおよび地政学的なリスクが数多く存在しており、不確実性が増しています。
 

図1:エマージング債券の年初来パフォーマンス

出所: J.P. Morgan 2021年6月末現在
 

ハードカレンシー建てソブリン債券と現地通貨建て債券:強弱混合

FRB は、インフレ率の上昇を受けて、予想よりも早い時期に利上げを行う可能性を示唆していますが、当社は、エマージング市場全体の成長見通しは依然としてポジティブであり、今後の新興国経済の信用力を支えるのに十分であると考えています。このことは、米国および欧州の経済回復により新興国のコモディティやサービスに対する需要が引き続き堅調であり、また、中国の成長によりコモディティに対する需要が維持され、原油価格の下支えとなる可能性が高いことを示しています。
さらに、昨年主要20ヵ国・地域が合意した低所得国の債務返済猶予措置(モラトリアム)は依然として有効であり、引き続き新興国に恩恵をもたらしています。各国の様々な機関も債務救済に乗り出しており、今後数ヶ月の間に新興国が国際通貨基金(IMF)の約2,400億米ドルの特別引出権(SDR)を受け取ると予想しています2

さらに難しいのは、金利上昇が新興国の海外からの資金調達能力に与える影響です。言い換えると、インフレや金利上昇の環境下では、外国人投資家からの資金調達が減少すると思われます。特に、コロンビアやインドネシアのように、経常赤字が継続しており、かつ海外からの資金調達への依存度が高い国では、通貨安を引き起こす可能性があるなど困難な状況が考えられます。現地通貨も逆風にさらされる可能性が高いものの、強弱混合な状況になると思われます。例えば、南アフリカ、ブラジル、メキシコなど、経常収支が徐々に改善し、場合によっては黒字に転換できた多くの国は、資金流出に耐え得ると思われます。

ハードカレンシー建てソブリン債券は、このような環境下でかなり有利なポジションにあると思われ、米国債利回りが安定して推移すれば、FRB のスタンス変更から実際に恩恵を受ける可能性があります。特に非投資適格国は、投資適格国対比でスプレッドが依然として拡大した水準にあるため、引き続き魅力的です。しかし、非投資適格国のパフォーマンスにはばらつきがあるため、どの国を選好するかは非常に重要です。実際、今後の投資機会を考えると、国の選択が重要な役割を果たすことは明らかです。過去数ヶ月間、一般的な市場環境(マーケット・ベータ)がリターンの重要な要因となっていましたが、FRB の姿勢の変化により、各国のファンダメンタルズが重要な要因となっていることは明白だと思われます。つまり、今後、適切な投資機会を見出し、落とし穴、つまり「悪いリンゴ」を避けるために、国別選択はこれまでと同様に重要であると思われます。 
 

社債:ファンダメンタルズは引き続き堅調 

社債に関しては、今後数ヶ月間は金利および経済成長が焦点になると見ています。FRBの直近のスタンスは、テクニカルな面では多少弱くなるかもしれませんが、これは予想よりも早い金利の上昇が今後の社債需要に影響を与える可能性があるためで、企業のファンダメンタルズは依然として堅調で、成長が鈍化しても大きな影響を受けることはないと思われます。デフォルト状況の改善に加えて、企業のレバレッジ水準は依然として適切な範囲にあり、ほとんどの企業が金利上昇環境下で徐々に高まる資金調達コストに耐え得ると考えています。実際、2020 年には、新興国の非投資適格企業のネット・レバレッジの上昇は、先進国の非投資適格企業のそれよりも低くなっています(図2)。
 

図2:新興国と米国における非投資適格企業のネット・レバレッジ

出所: J.P. Morgan 2021年6月末現在


ワクチンをめぐる環境や明るいニュースを背景に、社債スプレッドは引き続き縮小しており、市場の大部分がパンデミック以前の水準よりもタイトになっています。とはいえ、スプレッドは歴史的に見ても先進国市場と比較しても依然として拡大した水準となっており、特に非投資適格セグメントにおいては先進国市場の同セグメントに対して約50~60bpsのプレミアムが乗っています3。これは、中国、ペルー、ウクライナ、トルコなどで最近発生したリプライシングの影響もありますが、同事象が正常化し、より広範に経済回復が進むにつれて、さらに縮小の余地があることを示唆しています。しかし、ハードカレンシー建てソブリン債券と同様に、投資機会を発掘しリスクを回避するためには銘柄選択が重要です。
 

今後の見通し

FRB はエマージング市場の経済成長という風を多少弱めたかもしれませんが、全ての資産クラスおよび発行体が同程度の影響を受けるわけではありません。金利が上昇してもポジティブな成長見通しが頓挫したり、ハードカレンシー建てソブリン債券や社債のパフォーマンスが大幅に低下したりすることはないと思われますが、現地通貨建て債券や現地通貨にはより大きな困難が待ち受けている可能性があります。このような環境下では、2021年下半期に向けて、ESG 要因が企業や国に与える影響を含めたボトムアップ分析を徹底的に行うことが、パフォーマンスの重要な差別化要因になると考えます。結局のところ、金利変動の時期や米中および米ロの将来の緊張関係がどうなるかを正確に予測することはできませんが、当社はボトムアップの分析に基づいて、環境の変化に耐え得る国や企業に選別的に投資する能力を有していると考えています。  
 

1.出所:J.P. Morgan  2021 年6月末現在
2.ベアリングスの市場観測に基づく
3.出所:J.P. Morgan  2021 年6月末現在

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Omotunde Lawal(オモチュンデ・ラワル)、CFA

CFA、EMEA社債責任者、新興国社債責任者

Cem Karacadag(ジェム・カラジャダ)

新興国ソブリン債券責任者

Dr. Ricardo Adrogué(Dr. リカルド・アドロゲ)

グローバル・ソブリン債券&為替責任者

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