投資適格社債、CLO、ABS:金利上昇の兆し

2021年10月 – 3 分 レポートを読む
利上げの可能性が現実化し、スプレッドが非常にタイトな水準となっている中、伝統的な投資適格社債だけでなく、エマージング社債やローン担保証券(CLO)なども視野に入れたマルチクレジット戦略が有効であると思料されます。

今後金利が上昇するのかどうか、確かなことは誰にも断言できませんが、いずれにしても、金利上昇のリスクとそれに伴うであろう逆風は、現在、投資適格社債の投資家が直面している悩みの最たるものです。米国連邦準備制度理事会(FRB)が11月に資産購入プログラムの縮小を開始し、2022年半ばの利上げを示唆したことから、米国国債利回りは第3 四半期末にかけて上昇しました。その結果、投資適格社債は-1.27%とマイナスのリターンとなりました1。セクター別では、金融セクター、特に生命保険および損害保険のサブセクターが最も堅調でした。また、E&P(開発)およびパイプライン企業などのエネルギー・セクターも好調でした。

マイナスのトータル・リターンにより、個人投資家が投資適格社債ファンドからの資金流出を誘発させる可能性がありますが、この傾向はまだ見られていません。事実、ファンドの資金フローは全体的にプラスを維持しており、特に短期ゾーンの銘柄への投資傾向を示しています。その理由の一つは、金利上昇が必ずしも投資家にとって都合の悪いニュースではないからです。先進国の国債を中心に、低利回りもしくはマイナス利回りの資産が依然として大半を占めているため、投資家は利回りを追求しています。そのため、金利上昇により高格付け社債の利回りが上昇すれば、現在の債権保有者が金利の調整の影響を受けたとしても、同資産クラスに資金が流入する可能性は高くなります。背景の一部としては、利回りを追求するためにより格付けの低い債券を投資対象としていた投資家が、より格付けの高い債券へ回帰するためと考えられます。
 

テクニカル面のサポートと堅調なファンダメンタルズ

金利の上昇に加え、新型コロナウイルスのデルタ株や中国の規制強化などのヘッドライン・リスクにもかかわらず、当四半期末の社債スプレッドは、堅調なファンダメンタルズおよびテクニカル面に下支えされ、前四半期末と同等の水準となりました。新規発行額の増加は引き続き社債市場を圧迫していますが、過去最高額を記録した2020年以降はやや落ち着きを取り戻し、当四半期末時点で1兆3,550億米ドルとなりました2。また、大量の供給にも関わらず、アジアの海外投資家を中心とした根強い需要に支えられ、市場が十分に供給を消化していることもプラスに作用しています。ファンダメンタル面では、企業のレバレッジは引き続き改善傾向にあり、パンデミック前の水準に戻っているケースがほとんどです。さらに、ほとんどの企業はバランスシート上の現金に対して慎重であり、多くの場合、現金を負債の返済に充当していると思料されます。
 

図1:安定した第3四半期の投資適格社債スプレッド

出所: Barings 2021年9月末現在
 

ライジングスター、エマージング社債

経済指標が経済成長の鈍化をより明確に示すようになれば、スプレッドが現時点の水準からさらに縮小する余地はほとんどないと思われます。しかし、ファンダメンタルズ要因やパンデミック後の回復が引き続き社債の下支え要因となり、いくつかの主要な分野で選択的な投資機会が生じると思料されるなど、明るい兆しも見られます。  

引き続き投資機会を追求するのは、「ライジングスター」と呼ばれる、ハイイールドから投資適格に格上げされた企業です。資本コストの改善や資本市場へのアクセスを手に入れたことで、企業は投資適格ユニバースにとどまる、あるいは投資適格に格上げされるインセンティブが生じています。例えば、昨年、同ウイルス発生後多くの企業が格下げされましたが、EQTコーポレーションやクラフト・ハインツなどの一部の企業はレバレッジを下げるための重要な措置を講じたため、現在では再び格上げされる準備が整っています。また、Netflixなど、フォーリン・エンジェルではないものの、クレジット指標の改善によりライジングスターとなりうる企業も見られます。 

今後の金利上昇の可能性や現在のスプレッド水準を考慮すると、より短期の変動金利資産への投資戦略は検討に値すると考えています。例えば、CLOは、変動金利のクーポンを提供するため、金利リスクの低減につながります。また、投資適格エマージング社債は、先進国社債に比べてデュレーションが短いという特性を有し、スプレッド・プレミアムも提供する傾向があることから、投資機会が見出されています。最近では、中国の不動産大手である Evergrande(エバーグランデ) が債務不履行に陥るのではないかという懸念から、市場のボラティリティが拡大しました。これが米国市場に大きな影響を与えるとは考えていませんが、この不確実性により、投資適格社債とエマージング社債のスプレッドは、先進国市場の社債対比で約20~30bps拡大しました3。 

柔軟性が重要

現在の環境においては、投資適格ユニバースに幅広くエクスポージャーを有することは、大きな恩恵の享受につながると考えます。マルチクレジット戦略は、投資適格社債やエマージング社債、CLO、資産担保証券(ABS)などの幅広い投資機会にアクセスが可能であるという点で特に有効です。マルチクレジット戦略は伝統的な債券戦略とは異なり、ベンチマークにとらわれない、つまりポートフォリオ・マネジャーがポートフォリオを構築する際にベンチマークを遵守する必要がないことから、資産クラス、セクターおよび地域を問わず、最も魅力的な相対価値の機会を追求する柔軟性を有しています。このため、マルチクレジット戦略は、ポートフォリオ分散を高めるだけでなく、伝統的な戦略や単一セクターの戦略と比較して、長期的により魅力的なリスク調整後のリターンをもたらす可能性があります。

1. 出所: Bloomberg Barclays 2021年9月末現在
2. 出所: Bloomberg Barclays 2021年9月末現在
3. 出所: J.P. Morgan 2021年9月20日現在 

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