投資適格社債:堅調なパフォーマンスの継続余地

2021年1月 – 4 分 レポートを読む
急激な価格変動を経験した後、投資適格社債は良好な価格水準で2020年を終えました。一方、2020年に同資産クラスを下支えしたトレンドの一部が、今後数ヶ月間に反転するかどうかに市場参加者の注目が集まっています。

歴史的なイベントが発生した2020年に、高いボラティリティ環境の中、投資適格社債は低金利及び投資家の質への逃避姿勢の恩恵を受けました。緩和的な金融政策に加え、新型コロナウイルスのワクチン開発進展を受け、感染拡大及び消費行動の規制強化策への懸念の低下から、2020年を通して約10%のトータル・リターンが齎されました。社債スプレッドは、2020年3月に393bpsまで拡大したものの、第4四半期においても縮小傾向が継続し、年末には年初に近い水準である96bpsまで低下しました1

図1: 投資適格社債のスプレッド水準は堅調に低下

出所: ベアリングス 2020年12月末現在


実際、2021年前半には米国の多くの人がワクチンを接種すると見込まれており、米ドル建て社債の投資家は、コロナ禍の落ち着きが予想される数ヶ月から1年先の市場の見通しを検討しているように見受けられます。

ポジティブ要因とネガティブ要因

より多くの人々がワクチンを接種すれば、2021年後半に経済が再開し、それにより多くの企業のファンダメンタルが改善する可能性があります。企業の借入比率は過去最高水準ではあるものの、当初懸念された水準を下回っています。企業が調達した負債の大部分はバランスシート上では現金に位置付けられているため、ネットベースの借入比率は実質的にはそれほど上昇していないためです。企業が賢明であり、今後バランスシート上の現金を不必要な負債の返済に充てると仮定すると、借入比率はより標準的な水準に向かうと予想されます。

図2:EBITDAの12カ月成長率、総負債・純負債

出所: J.P. Morgan 2020年9月末現在


テクニカル面では、同ウイルス感染拡大後に企業は流動性強化策を実行し、社債発行額は政府支援を背景に2兆米ドル超(ネットベースでは1兆米ドル)2へと急増しました。これだけの発行規模にも関わらず、十分な需要に見合う中、直ぐに市中で消化されました。ヘッジコストの大幅な低下や、マイナス金利債券の大幅な増加(一部の試算では18兆米ドル3程度)を受けた、海外投資家需要の高まりが背景にあると思料されます。

企業のバランスシート上の現金保有が過去最高の水準となる中、長期的には経済環境の回復が見込まれ、2021年の社債発行額は大幅にこれまでの水準を下回ると見ています。グロスベースでの発行額は1兆2,000億米ドルから1兆3,000億米ドルと予想される一方、ネットベースの発行額は過去平均を大きく下回る3,000億米ドル程度の低水準に留まり、引き続き需給面におけるスプレッドのサポート要因と思料されます4
 

反転の蓋然性

ネガティブな側面として、2020年に見られたような複数のサポート要因が2021年の下半期に反転する可能性があります。一例として、投資適格社債を安全資産と見做して投資比率を高めていた投資家は、経済の再開に合わせ、より高リスクかつ高利回りの資産クラスへのアロケーション変更を行う可能性があります。また経済の改善が、米連邦準備制度理事会(FRB)が担ってきた市場セーフティネットとしての役割の低下を促す可能性があります。結果的に、特に投資適格市場の低格付け部分において、パフォーマンス低下とスプレッド拡大につながると思料されます。 

多くの投資適格社債の投資家にとって、金利も重要な関心事です。FRBは、短期的には低金利を維持する方針を明確にしましたが、追加の景気刺激策や景気の改善が、金利上昇に対する懸念の高まりにつながる可能性があります。概して、金利上昇は投資適格社債市場にとって逆風であり、特にスプレッドがレンジ内での推移に終始する場合、ほとんどの資産クラスにおいてもマイナスのトータル・リターンとなる可能性があります。同様に、リテール顧客の投資適格債券ファンドから資金流出が想定されますが、同顧客資金の比率は投資適格市場において、比較的小さな割合に過ぎないことを念頭に置いておくことは市場の動向を見通す上で意味があると思料されます。 

一方で、投資適格社債の投資家基盤が多様であることを鑑みると、市況の概観は複雑であり、金利上昇がポジティブな要素となる可能性もあります。例えば、保険会社や年金基金のような長期のライアビリティを有する投資家にとって、金利上昇が結果的に競争力を有する投資機会につながります。スプレッドの安定が期待できれば、結果的には投資適格社債への投資回帰を促すものと思料されます。
 

投資機会の出現

ファンダメンタル面およびテクニカル面の下支え要因を鑑みると、多くの予測が示すようにスプレッドは2021年を通して一段と縮小する可能性があります。スプレッドのタイトニングを利用する一つの投資行動として、価格の戻りが不十分であると見受けられるハイベータ銘柄の選好です。例えば、投資適格社債では、長期間の同ウイルスに対する不確実性への耐性を有していると思料される、BBB格の銘柄に引き続き投資妙味を見出しています。 

また、デュレーションの短期化およびクオリティの向上からも恩恵を受ける可能性があります。投資適格社債以外に目を向けると、例えば、米連邦家族教育ローン・プログラム(FFELP)の学生ローンなどの高格付けの市場セグメントにある資産担保証券(ABS)や、商業用不動産担保証券(CMBS)の中でも倉庫やデータセンターなど同ウイルスの影響が少ないセクターの物件を担保とする銘柄は、引き続き魅力的であると見ています。また、ローン担保証券(CLO)においても、特にAAトランシェおよびAトランシェに、今後の投資妙味を見出しています。 

今後数ヶ月においても、ワクチンの承認および配置に関する不透明性がくすぶり続けると懸念されます。楽観的なムードが現出する側面がある一方、必ずしも既に困難な状況から脱しているわけではありません。このような環境下においては、ボトムアップ・アプローチが不可欠な要素であり続けると思料されます。アップサイドを狙った銘柄選択や短期的な困難を切り抜ける耐性を有する企業を選好するだけでなく、今後さらなる困難に直面する可能性のある企業を回避するための銘柄選択を志向する必要があると思料されます。
 

1 出所: Bloomberg Barclays U.S. Corporate Index 2020年12月末現在
2, 3, 4 出所: Bloomberg Barclays Indices 2020年12月末現在

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Charles Sanford(チャールズ・サンフォード)

投資適格社債責任者

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