パブリック債券

2022年版 債券市場の歩き方

2022年1月 – 2 分 レポートを読む

2022年1月時点の債券市場の動向および見通しについて、先進国ソブリン債券チームの溜 学(たまる まなぶ)が解説します。

2022年の幕明けは米国株式市場の市場最高値更新で沸いたものの、その後は、量的緩和策縮小(テーパリング)の加速、早期利上げ、保有資産縮小などに前向きであった米連邦公開市場委員会(FOMC)の直近の議事録が公表されたことや、これまで米連邦準備制度理事会(FRB)内でハト派の急先鋒と見られていたブレイナード次期副議長までもがタカ派に急旋回し、金利は上昇し、株価の上値が重くなってきている。

今年の主要テーマであるFRBの金融政策を巡る思惑が早くも市場を直撃した格好だ。そこで、過去のテーパリング、利上げ、資産縮小の3局面での米国の債券市場の動きを示したのが下図だ。過去の動きが必ずしも将来も繰り返されるわけでは無いが、今後を予想するうえで重要な参考情報になることは確かだ。

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出所:Bloombergのデータを元にベアリングス・ジャパンが作成

過去のテーパリング期間では、長期金利は低下し、長短金利の格差も縮小した。2010年、2011年の量的緩和終了後にも同様な展開だ。景気浮揚効果やインフレ期待の創出効果を期待されて開始された量的緩和の終了、縮小は長期金利の低下要因となったわけだ。

利上げ局面では、10年国債利回りの当初の上下動は2015年の中国株の乱高下の余波が2016年に渡って影響を及ぼし、同年の米国大統領にトランプ氏が選出されたことに伴う市場の気迷いによるものだろう。期間前半の長短金利の縮小は利上げが将来の景気のクールダウンにつながることの反映であり、教科書通りの動きだ。期間後半に10年-30年国債利回り格差が拡大したのは利上げ局面の終わりを織り込み始めた影響だ。

2017年から2019年の資産縮小局面も興味深い動きだ。長期金利の前半の上昇はトランプ減税による成長期待の高まりと合致する。その後の急低下は利上げ局面の終了を織り込み始めたものだ。2年-10年の国債利回り格差はここでも期を通して縮小しているのに対し、10年-30年の利回り格差は前半に大きく縮小し、後半に大きく拡大している。特に後者が拡大に転じた時点は利上げが打ち止めになるかなり前であったことは特筆に値する。債券市場がFRBの次の動きを催促した格好になった。

さて、今回はFRBの主要メンバーが主張するように、テーパリング、利上げ、資産縮小のいずれもが前回に比べて早いペースで実行できるものと言及している。現状の景気の強さ、インフレ圧力の強さがその原因であるようだ。ただし、今回のサプライチェーンに端を発したインフレ圧力は金融政策で直接解決できるものではないことはFRBメンバーも認めている。金融緩和を転換し、利上げをすることでモノやサービスの需要を減退させることで間接的な影響を物価に及ぼす戦略だ。とは言え、その金融政策の効果が意図した通りに発揮された場合、需要の減退は、将来の景気、インフレ期待の低下につながり、それらを織り込む長期金利は低下し、長短金利は縮小するのが本筋のように思われる。歴史は繰り返されるか、今年の見どころの一つだ。

K202201Q01

溜 学(たまる まなぶ)、CFA

先進国ソブリン債券チーム、リード・ポートフォリオ・マネジャー

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