パブリック債券

CLO:需給ダイナミクスによって生じる投資機会

2021年10月 – 4 分 レポートを読む
大量の案件が投資家およびディーラーにとってボトルネックとなっているため、リファイナンスおよびリセット案件は、特にBB格トランシェにおいて引き続き魅力的な投資機会であると考えます。

第3四半期は、新型コロナウイルスのデルタ株感染拡大や中国の経済成長の不確実性などを背景に、2021年上半期に見られたポジティブなセンチメントはやや後退しました。しかし、ワクチン接種の進捗や持続的な景気回復などの楽観的な見通しはサポート要因となり、ローン担保証券(CLO)市場は堅調に推移しました。AAA格、AA格およびA格のパフォーマンスは、各0.33%、0.51%および0.68%となりました。BBB格、BB格およびB格もまた、各0.89%、1.89%および4.13%とプラスのパフォーマンスとなりました1

過去最高の発行額

第1四半期および第2四半期と同様、第3四半期も9月にかけてCLOの一部の発行額が急増し、米国および欧州のCLO発行額は各459億米ドルおよび114億ユーロに達しました。この背景として、8月には供給が落ち着くと予想されたもののそうはならず、米国の新規発行額は185億米ドルと過去最高を記録した点が挙げられます。しかし、新規発行額の増加要因は背景の一部に過ぎません。事実、10月の四半期の利払い前に、リファイナンスおよびリセット案件の新規発行額は9月に急増しました。これは、2019年および2020年に新規発行された案件の多くがノンコール期間の満了を迎えたことや、CLOのエクイティ投資家が負債調達コストの低下を活用しようとしたためです。その結果、リファイナンスおよびリセット案件を含む米国および欧州の今四半期の新規発行総額は、各約1,000億米ドルおよび200億ユーロ超に達しました2

図1:第3四半期のCLO新規発行額の推移

出所: J.P. Morgan 2021年9月末現在
 

ほとんどの場合、急増した新規発行は市場によって十分に消化されました。資本構造の上位格付けの銘柄において、スプレッドは幾分拡大したものの、歴史的に見て非常にタイトな水準を維持しています。これは、大手銀行や海外の買い手、保険会社などの機関投資家からの強い需要が継続しているためで、米国の保険会社のCLOに対するエクスポージャーは昨年だけで23%増加したと推定されます3。また、他の債券資産クラスと比較してより高い利回りが期待できることから、CLOのエクイティ投資家からの需要も急増しています。メザニン・トランシェの中でも特にBB格のスプレッドは非常に拡大した水準にありますが、AAA格およびエクイティ・トランシェ双方に対する需要に加え、市場におけるウエアハウス(CLOマネジャー向けの信用枠)規模が過去最高水準に達していることから、年内の新規発行は引き続き堅調に推移すると思料されます。
 

担保付翌日物調達金利(SOFR)、ケイマン諸島

とはいえ、今後数ヶ月の新規発行に影響を与える可能性のある複数の要因が現時点で確認されます。一つは、LIBORからSOFRへの移行が2022年初に実行されることです。ベーシスの差異を背景に、SOFRでエクイティを発行するとコスト高となる可能性があるため、発行体はウエアハウスを来年初に行う結果、市場における新規発行が増大する可能性があります。一方、現在SOFRで発行されているほとんどの案件にはスプレッド調整が含まれていますが、全案件がSOFRに移行することでスプレッド調整が不要となる可能性があります。したがって、一部の市場参加者がスプレッド調整を含む案件を発行するよりも、SOFR対応の発行を選択した場合、2021年の年末に向けて供給が減少する可能性があります。  

数ヶ月前に発表された別の興味深い市場動向は、現在ほとんどの案件が発行されているケイマン諸島が欧州連合(EU)のブラックリストに載る可能性があるため、ユーロのリスク・リテンション規制を有する案件の購入が必要不可欠な投資家が影響を被ると思料されます。これが最終的に適用された場合、市場はブラックリストに含まれない別の事業体からの発行に問題なく切り替えるでしょう。しかし、その間、投資家は、ケイマン諸島発行の案件を購入しても、通常の5~6週間のクローズ期間内に発表があった場合、決済できないというリスクに直面します。このような予想不可能な見通しにより、今後数ヶ月間における市場への参加に影響を与える可能性があるため、今後の状況を注意深く見守る予定です。
 

BB格、リファイナンスおよびリセット案件 

今日、資本構造全体を見ると、BB格に特に魅力があると見ています。市場に大量に供給されていることから、クレジット指標やデフォルト予想が改善し続けているにもかかわらず、スプレッドは前述の通り依然として拡大した水準にあります。足元の市場価格に基づくと、CLOのBB格トランシェは、現在レバレッジド・ローン市場におけるスプレッドの約1.7倍となっているため、投資家は同一もしくは類似の担保を別の形で保有することで、スプレッドの上乗せ分を獲得することが可能となります4

高格付けトランシェとメザニン・トランシェの双方において、新規発行案件よりもリファイナンスおよびリセット案件の方に価値を見出しています。市場の取引額が膨大なことから、同ウイルスの影響を受けるセクターへのエクスポージャーがゼロのクリーンな新規発行案件は、分析に時間とリソースを要するリファイナンスおよびリセット案件よりも注目を集める傾向にあります。その結果、テールリスク・クレジットに対するエクスポージャーをほとんど有さない第1級のCLOマネジャーが発行する案件であっても、リファイナンスおよびリセット案件は引き続き優位なスプレッドを提供しています。
 

今後の見通し

市場がLIBORからSOFRに移行する2022年初には供給が緩やかに減少する可能性があるものの、今後数ヶ月間は供給が多い状態が続くと予想します。また、投資家が金利上昇を見越して変動金利型商品に移行するなど、需要も持続すると思われます。このような動向から、特に低格付けのBB格トランシェでは、今年末にかけてスプレッドはレンジ内に留まるとみています。このような背景から、CLOは、単体でも、より広範なマルチクレジット債券マンデートの一部としても、引き続き魅力があると考えます。例えば、同等の格付けを有する投資適格債券やハイイールド社債と比較すると、CLOは利回りを向上させる可能性があるだけでなく、変動金利であることから金利上昇局面において安定的な推移が可能となります。しかし、今後の不確実性および短期的なボラティリティ上昇の可能性を考慮すると、適切な投資機会を選別し不必要なリスクを回避するためには、ボトムアップによる慎重な銘柄選択およびマネジャー選定が重要です。
 

1. 出所: J.P. Morgan CLOIE インデックス 2021年9月末現在
2. 出所: J.P. Morgan CLO リサーチ 2021年9月末現在 
3. 出所: 全米保険監督官協会(National Association of Insurance Commissioners) 2021年10月7日現在
4. 出所: ベアリングスの市場観測に基づく 2021年9月末現在

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Taryn Leonard(タリン・レオナール)

マネジング・ディレクター

Melissa Ricco (メリッサ・リッコ)

マネジング・ディレクター

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