パブリック債券

2度あることは3度あるか。米国10年国債利回り3%到達後の動きを考える

2022年5月 – レポートを読む

2022年5月時点の債券市場の動向および見通しについて、先進国ソブリン債券チームの溜 学(たまる まなぶ)が解説します。

米連邦準備制度理事会(FRB)は5月3~4日の米連邦公開市場委員会(FOMC)でフェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を0.5%引き上げた。市場で懸念されていた0.75%の利上げは回避され、パウエルFRB議長の市場への配慮も垣間見えたが、その後に公表された米国の雇用統計では雇用市場の堅調さが改めて確認され、米国10年国債利回りは3%を超えて推移した。3%超えはこの10年間で2013年のテーパータントラムの時期、2018年の利上げ&量的引き締め(QT)の時期に次いで3度目だ。今後の動きを考えてみたい。

下図は、2013年5月以降、2018年1月以降、2022年1月以降のそれぞれの米国10年国債利回りの日次の推移を示したものだ。興味深いことにいずれも90~100営業日に3%に到達している。2022年のここまでの金利の急上昇は2013年テーパータントラムに匹敵するペースだ。2013年の動きを辿るとすれば、これから30営業日前後で米国10年国債利回りは2.5%程度にまで低下することになる。時期的には6月中旬前後になる。一方、2013年ではなく2018年の動きを辿るとすれば、まだまだ金利上昇のピークは先のようにも見える。

what-happens-twice-chart1.jpg出所:Bloombergのデータをもとにベアリングス・ジャパンが作成

今回のQTの特徴は、前回2018年に比べて、利上げ幅が通常の0.25%の2倍である0.5%になっている。また、量的な引き締めの尺度である資産圧縮のペースも倍速で進んでいく。計画によると6月以降、月間で国債の保有額を300億米ドル、MBS(住宅ローン担保証券)等の保有額を175億米ドル減少させ、9月以降は同じく国債を600億米ドル、MBS等を350億米ドル減少させる方針だ。これらも概ね2018年の倍の規模だ。そういう意味では、今回のQTは2018年の倍速のQTと言える。

そこで米国10年国債利回り推移にも上述の倍速の動きを視覚化すべく工夫してみたのが下図だ。2017年1月以降の週次の推移と2022年1月以降の日次の推移を重ねてみたところ、図柄が極めて酷似していることが判明した。2017年から2018年にかけての第1次QT時の米国債の動きを、今回の2022年の第2次QTは倍速で辿っているように見える。この倍速の動きが続けば、今回も3%到達を境に米国10年国債利回りが低下基調を辿ることが予想される。

what-happens-twice-chart2.jpg出所:Bloombergのデータをもとにベアリングス・ジャパンが作成

興味深いのは、2018年に金利が低下に転じた背景が中国景気の減速にあったことだ。足元の中国景気はゼロコロナ政策の影響で急速に冷え込んできている。今回は世界的なインフレ懸念等の特殊な要因もあるが、米国内でも住宅市場の減速が見え始めるなど金利のピークアウトを示唆する材料が見え始めている。また、米国債の利回りが3%に到達したことで、リスクの高い資産から米国債に資金をシフトする動きも生じているようだ。3度目の3%は貴重な投資機会と言えそうだ。

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溜 学(たまる まなぶ)、CFA

先進国ソブリン債券チーム、リード・ポートフォリオ・マネジャー

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